3人の冒険が始まった。
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どうやらサンエーはサンエーでも、
経塚ではなく、石嶺のサンエーらしい。
ふらふら歩くおじさんの少し前を歩きながら誘導する。
たまにどこかにぶつかろうとしたり、
道路に出ようとしたりするので、
肩を支えたり、腕を掴んだりしながらの難易度の高い誘導だ。
私「今日は飲んでたんですか?」
お「・・・そうそう。きょうはよ。20ねんぶりにともだちとあってきたわけ・・・」
私「20年ぶり!それは楽しい会だったんですね~」
お「そうそう。だからよ。うれしくてさ。のみすぎたっ」
私「そっか~そりゃあ盛り上がりますよね~」
お「そう。・・・この犬はおりこうだね。みにしば?・・・あそう。
うちにもしばけんがいるわけよ。しばけん。
しばけんだけど、しばけんじゃない(ふらふら)」
私「笑」
お「いつもこのへんさんぽしてるわけ?
うちもよ、うちのいぬつれてさんぽしたいけどよ、
ぜったいそとにでたがらんわけよ。いえにばっかいるわけ。
はっさこのいぬおりこうだね。みにしば?・・・あそう。
うちにもしばけんいるわけ。でもいぬじゃない(ふらふら)」
私「笑」
ふらふらのおじさんの肩を支えたり、腕を引っ張ったりする。
汗でべたべたするし、臭い!笑
でも話してるかんじ、きっと素敵な人間だ。
このおじさんを無事家まで届けよう。
茶茶は、
「こんなところまで歩いたのはじめてだわ。ここどこ?疲れたんだが。」
という顔をしている。
あなたのベロってそんなに長いのねと思うほど、
ベロ~ンと舌を垂らし「ハッハッハッ・・・」と息づかいが荒い。
汗びっしょりの私は、いつの間にかおじさんに負けないくらい臭くなっていた。
ふらふらのおじさんは、
横断歩道でも「今、青なのか、赤なのか」の判断がついていない。
私はおじさんを見ながら後ろ歩きして「はい、青です。行きましょう。はいこっちですよ〜!」と声を掛ける。
整備士さんが飛行機を誘導する様子、またはサザエさんのエンディングの誘導を想像してほしい。
赤信号で止まっている車窓から、「不思議な人達だな」という視線を感じる。
石嶺のサンエーまでもうすぐだ。
おじさんよ。
酔っ払いの汗臭いおじさんよ。
あなたと私はきっと今後会うことはないでしょう。
しかし今日この時間を共有し一緒に冒険をした。
明朝にはあなたはこの冒険を忘れるでしょう。
あなたがこの不思議で素敵な冒険を忘れてしまうのは寂しい気もするが、
それもまたおもしろいでしょう。
家に着いたおじさんは、丁寧に頭を下げて
「ほんとうにありがとうございます。またきかいがあれば!」
と言って家に入っていった。
豪邸だった。
よかった。
ここからながーい帰路の旅がはじまる。
茶茶はもう限界を迎えている。
おい、行くぞ!
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家の玄関を開けて入った瞬間、
涼しいクーラーを全身に浴びながら、
茶茶はペタンと床に座り込み、
ハッハッと、しばらく動かなかった。
おれたち、いいことしたよな!
お疲れさま!
私は茶茶に、高級ビーフジャーキーを1本あげた。
おしまい